2023年7月、文部科学省から初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドラインが示され、さまざまな議論が続いている。そんな中、マイクロソフトは2024年9月10日に、AI活用に最適なCopilot+ PCのSurface ProとSurface Laptopを法人および教育機関向けに出荷開始予定だ。
教育ICTや校務DXに詳しい元教員の栗原太郎氏と、Surfaceの教育市場を担当されている岡涼平氏に、Copilot+ PCとは何か、教育現場でのAI活用の可能性などについて対談していただいた。
栗原太郎氏
日本マイクロソフト パブリックセクター事業本部 文教営業本部 カスタマーサクセス戦略マネージャー 兼 GIGAスクール政策室 室長代理。教員経験を生かして全国のICT教育および校務改革の推進をサポートしている。
岡涼平氏
Microsoft Asia Surface ビジネス本部 教育市場 GTM マネージャー。Surfaceの教育市場担当として教育ICT環境の整備をはじめとして、先生の教え方・働き方や子供たちの学び方の改革を支援している。
Copilot+ PCで広がる教育現場の可能性
栗原氏:マイクロソフトは創業以来「パソコンをすべての家庭と組織へ」というミッションのもと歩んできましたが、2014年に「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」を新たなミッションとしました。
2024年5月21日から23日まで開催された年次開発者会議「Microsoft Build」で、当社CEOのサティア・ナディラは、最先端のAI テクノロジーによってできることが広がっていく近未来の可能性についてプレゼンしました。
「Microsoft Build」で披露されたデモでは、マインクラフトをプレイする中、プレイヤーがCopilotに「剣を作りたいけどどうしたら良い?」と聞くと、Copilotはゲーム画面をリアルタイムに認識して材料の不足を指摘したり、敵への攻撃方法についてアドバイスをしたりします(ビデオの21:05〜)。
また他のデモでは「寒い地域でのキャンプに行きたいけど、この靴で大丈夫?」と靴をカメラに向けてCopilotに聞くと、その靴が夏用であると認識して「行く場所や天候などからその靴でないほうが良い」とアドバイスをして、ショッピングサイトでの適切な靴の購入までサポートしてくれます(ビデオの23:30〜)。
これらの機能はAI活用の一例で、パソコンの中の仮想空間や人間のいる現実空間を問わず、自分のパートナーともいえるAI活用のアイデアを示しています。
岡氏:その中で私たちマイクロソフトは、クラウドからデバイスまで一貫したAI-Ready(※)な環境を提供しています。※人間がAIを安全かつ有効に活用できる状態。
栗原氏:学校現場をイメージすると、クラウドサービスのAzureをサーバーとすれば、このサーバーに校務支援システムを載せて、そこにAIアシスタントをつけることも可能です。アプリではMicrosoft 365でWord、Excel、PowerPointやTeamsにAIが存在して、文書の要約やメールの文面のサジェストなどをしてくれる。そして今回発売したSurfaceでは、デバイス側でAI処理が行えるようになりました。
岡氏:これまでのAIの利用では、インターネットに接続してクラウド上のAIを使って処理をするものが主流でしたが、今回発売したCopilot+ PCでは、クラウド上のAI処理だけでは実現できない、Copilot+ PC ならではの、さまざまな先進的な機能を利用できるようになっています。
通常のパソコンでは、パソコンを制御するCPUやグラフィック処理に使われるGPUを内蔵していますが、Copilot+ PCではそれらに加えてAI処理に特化したNPU(Neural Processing Unit)を搭載しています。AI 処理に特化したチップを搭載したことで、従来の文書作成や会議などのタスクはCPU、そしてAIの処理はNPU、というように負荷を分散することができ、同時に消費電力も抑えることができるため、PCのパフォーマンスが向上します。
栗原氏:AIを最大限に活用するためには、高性能なPCが必要です。このCopilot+ PCでは、NPUで40TOPS(毎秒40兆回以上)の処理能力、メモリ16GB、ストレージは256GB以上が要件となっています。AIを効果的に活用するには、教育現場でもPCのスペックを見直していく必要があるでしょう。
岡氏:Copilot+ PCのキーボードには「Copilotキー」が付いていて、このキーを押せば、すぐにCopilot in Windowsが起動します。※Copilot in Windowsが使用できないか無効になっている場合、キーはリコールを起動します。リコールが使用できないか無効になっている場合、キーはWindows Searchを起動します。
実は、マイクロソフトがキーボードの配列を世界的に変更するのは30年ぶりのことなのです。このことからも、マイクロソフトがAIの活用に本気であることが伺えると思います。
AIが広げる子供たちの未来の可能性
栗原氏:こうしたAI処理に特化したPCの導入は、子供たちの学び、そして教職員の働き方を大きく変えていく可能性があります。
文部科学省は、AIをまず校務で使いましょうという方針を出しています。先生方が校務にAIを活用していけば、時間的あるいはコスト的なメリットは、今後より大きなものになっていく期待があります。
さらに、子供たちの選択肢がより広がると考えています。たとえば、子供たちが自分に寄り添ったCopilotを使うことで、さまざまなプロの領域に到達する時間を短縮できます。近くに最適な指導者がいない分野でも、AIのサポートで個別最適化された学びに進み、学びのハードルが下がることで、子供たちの興味や進路の検討に幅広い選択肢を提供できることが期待されます。
私が以前、教員として意識していたのは、いかに子供たちが自分の想像を超えていくかということでした。大人も未来を予測できない中で、子供たちがどんどんAIを使っていって、私たち大人の想像を超えていく。あらゆるところで日常生活にAIが入っていく状況において、教員は子供たちを安全にファシリテートしてあげることが求められるのではないかと考えています。
法人・教育機関向けCopilot+ PCの詳細はこちらAIの活用で教職員の教え方・働き方が変わる
資料を探す手間を省く「リコール」機能
岡氏:Copilot+ PCの特徴的な機能である「リコール」機能では、そのPC上で以前に表示したことがある情報を即座に探し出すことができるようになります。定期的に画面に表示される情報のスナップショットを撮り、それらが蓄積されていくことで、アプリ、Webサイト、画像、ドキュメントから、簡単にかつ視覚的に探し出すことが可能です。※リコールは今後Windows Insider Program(WIP)からプレビューの機能として提供される予定です。リコールのスナップショットはWindows Helloによってユーザーが認証した場合にのみ復号化され、アクセスできるようになります。スナップショットはローカルに保存され、いつでも一時停止、フィルタリング、保存内容の削除ができます。デジタル著作権管理されている情報やInPrivateブラウジングのスナップショットは保存されません。
たとえば、「あの資料どこに保存したんだっけ?」「ファイル名を忘れてしまった」といったときでも、「オレンジとグレーのグラフがあるスライドの資料」などと検索して、視覚的に目的の資料を瞬時に見つけることが可能になります。ポイントは、すべてデバイス上で完結することです。スナップショットされた画像は、暗号化された上でローカルに保存・分析されます。
AIと共に創作できる「コクリエイター」
岡氏:新しいSurfaceならば、AIがリアルタイムに創作を支援してくれます。たとえば、自分が描いたイラストを元に、AIが油絵風や水彩画風などイメージにあわせて創作してくれます。また、生成された絵を逆インポートして、それをベースに自ら新たなパーツを描き足していくことも可能です。
たとえば、お便りや資料にちょっとしたイラストを付け加えたい場合や、文化祭などのイベント用の素材の作成にも活用できます。ペイント機能に盛り込まれているので、手軽に利用することができます。
言語を問わずコミュニケーションできる「ライブ キャプション」
岡氏:ライブ キャプションを使えば、リアルタイムでの翻訳が可能になります(※現在は44か国語から英語へ翻訳が可能)。これもCopilot+ PCに内蔵された機能で、ネット環境がなくても使えて、リアルタイムでマイクに入力された音声だけでなく、PCで再生している動画など、アプリを問わず認識してくれます。Surfaceの高性能なマイクで音声をしっかりと拾うことで、AIはライブ キャプションをより正確に実行できます。
Windowsの標準機能で高度な処理が可能に
岡氏:Windows スタジオ エフェクトでは、自動フレーミングをオンにすると、カメラに映る人物を認識して追尾し、その人物が動いても画面の真ん中に入るよう調整されたり、背景効果を使えば、背景にぼかし効果を適用できたりするので、オンライン授業にも便利です。Surfaceに搭載されたカメラが非常に広角で捉えるため、画角の端の方で人物が動いても追尾が可能です。
またWindowsに標準で入っているフォトもAIで強化され、背景の切り抜きやファンタジーな画像に変換するなど、高度な処理が可能になります。これまでは専用のアプリでなければ編集できなかったものが、Windowsの標準アプリでより手軽に利用できることで、教育現場での活用機会も増えていくでしょう。
栗原氏:特にSurfaceでは、AIが最適に機能するためにカメラやマイクひとつとっても良いものを搭載しています。また、ペンがあることは重要です。たとえば、これまでCopilotではプロンプトを伝えるのに、テキストを入力しなければなりませんでしたが、Surfaceのペンを使えばキーボードで入力しにくい数式などもCopilotに正しく伝えられます。ハードウェアが充実すれば、学習場面での活用の仕方も進化していくと思います。
自己完結できるトラブルシューティング
岡氏:現時点ではまだCopilot+ PCではサポートされていませんが、将来的にCopilot in Windowsでは、 Windowsの設定変更や一般的なWindowsタスク実行なども行うことができるようになる予定です。
栗原氏:音量や明るさを調整したいけど、どうすれば良いかわからないこともありますよね。学校ではパソコンに詳しい先生に聞く。しかし、その先生が知らなければネット検索して調べる必要があります。でもCopilotに聞けば良いとなれば、人に頼らずに解決できます。
岡氏:たとえば、「音が出ない」とCopilotに入力すれば、トラブルだと認識してトラブルシューティングツールを開いてくれます。そしてPCのスキャンによる原因の究明から解決までを一貫して行ってくれるのです。
栗原氏:マウスのポインターや画面、テキストの大きさを変えたいというのも、Copilotに聞けば良いのです。今後は、やりたいことや困っていることを伝えるなど、AIとコミュニケーションすることが大事になります。
岡氏:教職員の皆さんが忙しくされている中で、できるだけパソコンによる業務の負担を減らしたい。それが私たちの思いです。Copilot+ PCが教職員の皆さんのお役に立てるなら、これ以上の喜びはありません。
栗原氏:こうした処理が、デバイス側のAI処理で完結するということは教職員の働き方改革につながるでしょう。
今回の新しいSurfaceにはQualcommのSnapdragon Xシリーズのチップセットが搭載されていますが、Copilot+ PCのエコシステムにおいては、IntelやAMDのチップセットも同様に推進されていて、今後の広がりが期待されています。
法人・教育機関向けCopilot+ PCの詳細はこちら 教育現場におけるAIの活用は始まったばかりだが、AIの進化のスピードは速く、どんどんと私たちの身近なものになっている。Copilot+ PC の導入は、教育現場におけるAI活用を加速する起爆剤になるのではないだろうか。
Copilot+ PCのSurfaceが示すAIの進化と教育の近未来
公開日時:2024-09-09 10:15:03
カテゴリ:ICT機器/校務
- Copilot+PC
- 撮影:石井祐輔
- Copilotキーを押せばすぐにCopilot in Windowsが起動する
- 撮影:石井祐輔
- 自分が描いた線画を元に、油絵風や水彩画風などイメージにあわせて創作できる
- 撮影:石井祐輔
- 岡涼平氏(左)と栗原太郎氏(右)
- 撮影:石井祐輔
- 岡涼平氏
- 撮影:石井祐輔
- 栗原太郎氏
- 撮影:石井祐輔
- 岡涼平氏(左)と栗原太郎氏(右)
- 撮影:石井祐輔
- 岡涼平氏(左)と栗原太郎氏(右)
- 撮影:石井祐輔
<佐久間武>
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