GIGAスクール構想も第2期を迎える今、学校現場ではどのようにGIGA端末を運用しているのだろうか。学校現場からは、Windows PCの起動に時間がかかるという声も届いている。解決策はあるのか? 教育ICTや校務DXに詳しい元教員の栗原太郎氏と、ハードウェアの専門家である仲西和彦氏による対談から探っていきたい。
栗原太郎氏
日本マイクロソフト パブリックセクター事業本部 文教営業本部 カスタマーサクセス戦略マネージャー 兼 GIGAスクール政策室 室長代理。教員経験を生かして全国のICT教育および校務改革の推進をサポートしている。
仲西和彦氏
日本マイクロソフト デバイスパートナーセールス事業本部 マーケティング戦略本部 Commercial Windows戦略部長。グローバルに展開するITハードウェアメーカー数社を経験。さまざまなOSを搭載したデバイスの製品戦略に携わってきたハードウェアのスペシャリスト。
日に何度もシャットダウンするのは想定外
栗原氏:教員時代、周りの多くの先生方が、授業が終わるたびにPCをシャットダウンして、使うたびにいちから起動していました。そこで、使いたいときにすぐに利用できるようスリープでの運用を勧めましたが、浸透するまで時間がかかりました。
その後、日本マイクロソフトに入社し、多くの学校現場を回ってわかったのは、授業や校務が終わるたびに、日に何度もシャットダウンしている先生や子供たちが多いということです。たとえば、授業で少しPCを使い、授業が終わるとシャットダウンしているケースも見られます。
仲西氏:それは驚きですね。企業では、会議が終わるたびにシャットダウンしている方はほぼいないでしょう。私はPCメーカーに30年近く勤め、今はOEMメーカーにWindows搭載PCを作っていただき、そのマーケティング活動を一緒に進めていますが、PCを作る側は1日に何度もシャットダウンしてON/OFFを繰り返すような使い方を想定していません。
Windows PCの起動が遅いという声もあるようですが、スリープからの起動は即時で、すぐに授業に入れます。そうした利便性は学校現場で認識されていないのですか。
栗原氏:あまり浸透していないかもしれません。あとは、今までの電源を落とす習慣のほか、壊れるのではないかという恐怖、熱でPCの寿命が短くなる、こまめに切らないとバッテリー持ちが悪くなるといった懸念も背景にあると思います。
仲西氏:確かに熱はバッテリー寿命に影響を与えます。リチウムイオン電池の性能が落ちる最大の要因は熱で、高熱の状態を長時間続けるのは良くありません。だからそれを避ける運用は正しい。ただしスリープとはあまり関係なく、論理的には短い間で起動とシャットダウンを繰り返すほうがCPUの処理量が上がり、バッテリーが発熱するリスクが高くなるとも言えます。
重要なことは、そもそもPCは頻繁にシャットダウンと起動を繰り返すような使い方を想定して作られていないということです。PCメーカーは開発時には、ノートPCのディスプレイを開閉してヒンジ部の耐久を試したり、ディスプレイに物を落としたり、USBポートなどに静電気をかけるなど、さまざまな負荷をかける試験をしています。しかし、少なくとも私は、電源を頻繁にON/OFFするような試験を、見聞きしたことがありません。
デスクトップPCの場合は
仲西氏:もちろん長時間の使用による蓄熱を防ぐなど、PCの負荷を軽減するためのシャットダウンはやったほうが良い場合もありますが、ノートPCと同様、デスクトップPCも1日に何回もシャットダウンすることは想定されていません。
特にデスクトップPCの場合は、まだハードディスク(以下、HDD)で駆動しているものもあると思います。現在主流のソリッドステートドライブ(以下、SSD)と違い、HDDは電源のON/OFFの際に物理的な負荷が掛かります。止まっている状態のHDDを回し出す起動時の電力は、通常運転しているときよりも高く、電力消費の意味でも起動とシャットダウンを繰り返す使い方は良くないと思います。バッテリー駆動であればなおさらです。
HDDのデスクトップPCも、基本的にはスリープで、ときどきシャットダウンをすれば良く、むしろそうした使い方を想定して作られています。
スマホもPCも仕組みは同じ
栗原氏:スマホを使うたびにシャットダウンする方はいませんよね。PCも原理としてはスマホと同じ仕組みです。逆に言うとスマホを頻繁にシャットダウンしたら、電源を入れるたびにバッテリーに負荷がかかることを、ご存じの方も多いですよね。しかし、PCになるとその感覚はなくて、シャットダウンしてしまう。
仲西氏:昔はPCをシャットダウンするのが当たり前でしたから、その習慣が抜けない方もいると思います。以前は、ノートPCを持ち歩くときにシャットダウンする理由のひとつに、HDDが衝撃に弱いというのがありました。確かにシャットダウンして持ち歩くのは、故障率を下げる効果がありました。しかし、今はSSDになり構造が変わり、スリープ状態で持ち歩いても問題ありません。
さらに以前は、バッテリーの充電を繰り返すと満充電量が顕著に減っていました。だからほんのわずかでもバッテリーから放電させないために、使わないときにはシャットダウンしていた人はいたと思います。今のリチウムイオン電池の満充電量の減り方はかなり改善されているので、そういう意味でもスリープ運用で問題ありません。
スマホが登場したときにはリチウムイオン電池が一般的で、SSDがあり、低消費電力のCPUがあり、最初から電源を切らない使い方ができましたよね。だから慣習の違いがあるわけです。栗原さんがおっしゃったように、仕組みではPCとスマホは同じです。何がいちばん違うかといえば、サイズです。
PCはスペース的にファンで外に熱を逃がす仕組みを作ることができますが、スマホは小さいうえに、防水の面からもエア抜きがしにくい構造になっている。つまり、PCよりスマホのほうが熱を帯びやすいわけです。でも、スマホの利用目的からも、頻繁にON/OFFする人はほぼいませんね。
スリープ時にアプリやブラウザはどうする
仲西氏:スリープ時に、立ち上げているアプリやブラウザを、そのままにしても良いのか、それともアプリやタスク、ブラウザを閉じたほうが良いのかという疑問もあると思いますが、ハードウェアの意味で言うと、ほとんど差はないと言えます。
スリープ状態になれば、使用される電気は基本的にメモリの内容を維持するだけになります。そのときにインプットされた内容が変わらない限り、メモリの書き換えは発生しませんから、どの状態で保持するかの選択の問題ですね。
栗原氏:バックグラウンドタスクを完全に停止して、ネットワーク自体も通常切断するのが古いタイプのスリープですが、新しいスリープでは基本的にバックグラウンドタスクは動きますし、ネットワークもそのまま維持した状態のため、最新のPCならばすぐに復帰もできます。
シャットダウンする目安は
仲西氏:長期間スリープ状態にすると、待機電力とはいえバッテリーが切れる可能性があります。夏休みなど、あらかじめ長期間にわたり運用しないとわかっている場合は、シャットダウンするのが良いでしょう。通常利用する場合は、シャットダウンする必要はなく、たとえば、週末に端末を使わない場合ならばどちらが良いか迷う程度ですね。
栗原氏:自治体や学校の方からは、夜間などPCを利用しない時間帯の保管時に、シャットダウンしたほうが良いのか、スリープのままが良いかというご質問を受けることもありますね。
仲西氏:やはりまだ多くの方がシャットダウンを中心に運用していて、「電気消費量を減らしたい」「再開時のバッテリー残量を確保したい」などの理由から迷われるのだと思います。通常利用している際に大きな電力消費を占めるモニターやCPUは、スリープ時にはあまり電力消費がありませんが、シャットダウンから起動すると、スリープよりも大きな電力を必要とします。そのためスリープならば起動時に電気消費量は抑えられるとも言えるでしょう。バッテリー寿命の観点では、シャットダウンしてもスリープにしても、大きな差はありません。
一方で、スリープはシャットダウンに比べて明らかに素早く起動するので、校務や授業でPCを有効活用するには、スリープがお勧めです。こう考えるとGIGAスクール構想の目的、つまりICTによって教育効果を高めることを第一に考えれば、必要なときに必要な道具をすぐに使えるという利便性を優先するべきではないでしょうか。
今後、学校現場で「スリープ運用」が広まると良いと思います。
Microsoft Education 最新 資料・カタログ
Windowsってシャットダウンしなくて良いの? マイクロソフトの専門家に聞いてみた
公開日時:2024-06-28 15:15:03
カテゴリ:ICT機器/授業
- 仲西和彦氏(左)と栗原太郎氏(右)
- 撮影:曳野若菜
<佐久間武>
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